■ 「風切の突出」は識別に有効?
ここでは今更ではありますが管理人の私見による解説をしてみたいと思いますので、お付き合いください。
Wing projection(略してWP)とは、静止時の尾羽先端からの初列風切最長羽の突出量のことです。ここでは便宜上、初列が尾羽から突出する場合を+、尾羽の方が突出している場合は−と表現します。良く似た用語でPrimary projection(略してPP)というのもありますが、これは3列風切最長羽先端からの初列風切最長羽の先端までの突出量のことで、WPとは指している部分が全く異なります。しかしWPとPP双方は密接に関係していて、シギ類のプロポーションを形成するのに重要な要素を持っています。
Little Stint juv.(left) , Red-necked Stint
juv.(right)
左がニシトウネン幼鳥、右がトウネン幼鳥です。この例ではWPは正反対ですがPPはそれほど変わりません。
Baird's Sandpiper juv.(left) , Long-toed Stint ad.(right)
こちらは極端な特徴のある例。左がヒメウズラシギ幼鳥、右がヒバリシギ成鳥です。
妄信は禁物
WPやPPはシギチの重要な識別ポイントとされていることが多いようです。確かにヒメウズラシギのように極端にWP+が大きいものや、ヒバリシギのようにPP=0の種は判り易いのですが、微妙な長さの比較に関しては種の識別の決定打になりうるかは疑問です。
例えばトウネンとニシトウネンは上の写真のような傾向が確かにあるのですが、個体によってはWPが逆転して見える場合もあり得ます。WP、PPはあくまでも傾向的、確率的なものなので、総合的な判断要素の一つにとどめたほうが良く、逆にこの1点だけを絶対視して識別を判断するのは避けた方が良いでしょう。
羽の伸長・磨耗・欠落による差
WP、PPを決定する初列風切、3列風切、尾羽は、基本的に換羽によって抜け落ちたり伸長したりします。単純に考えても、初列風切を換羽中で最長の羽が抜け落ちていたり、伸長の途中だったりすれば、その個体本来のWPを知ることができません。また3列風切が抜け落ちていると、見た目上PPが非常に長く見えたりするので要注意です。
Wandering Tattlers メリケンキアシシギ成鳥(両方とも)
Little Stint (the same bird) ニシトウネン成鳥(同一個体)
成鳥・幼鳥の差
これはあまり言及されることがないのですが、同じ種でも成鳥・幼鳥の違いでWP、PPに差がある場合が結構見られます。傾向としては、幼鳥の方がWP、PP共に成鳥よりも大きい場合が多いです。この理由は、幼鳥では初列風切の伸長は渡りのために比較的早い時期から完了するのに対し、3列風切の伸長が成鳥より少なく、同時に胴体が成長しきっておらず尾羽先端がやや前方にあるためなのではないかな?と個人的には思っていますが、実証するためにはバンディングなどで実際に測定しないといけないので、はっきりとは言えません(誰か教えてください)。しかしそれを頭に入れておくと、WP、PPの個体差の多さの理由がある程度理解しやすい気がします。
Littlestint juv.(left) & ad.breeding(right)
左がニシトウネン幼鳥、右が成鳥夏羽です。もちろん換羽の状態による差もあるので、この例がほとんどの個体に当てはまるというわけではありませんので誤解しないでください。ただ、成鳥と幼鳥のWP、PPの差という部分ではニシトウネンは比較的差が大きいと感じます。種類によってはこの差が少ない場合もありますし、PPの無いヒバリシギは全く差が判りません。
■ Stint類のWP・PP 比較図 (Stint Fanオリジナル)
ここまで、WP、PPの個体差の多さという問題点を述べておきながら、一部のStint類の比較図の作成にあえてチャレンジしてみました。(実はここまでの話題はこの図のための前振りでした!) これは管理人("@stint"NK)が撮影した写真や、いろいろな図鑑・ウェブサイトの画像などから、良く見られるバリエーションのパターンを個人的感覚を元にまとめてみたもので、学術的根拠は全くといっていいほどありません。ですので皆様の暖かいご指摘で明らかな間違いが判明すれば即刻削除・修正しますのでご了承ください。
ただ、このように個体のバリエーションを考慮に入れたWPの比較図というのはあまり見たことが無いのでは、と思います。こうして少しずつあまり図鑑で触れられる事の無いバリエーションの世界を理解するために試行錯誤してみたいと思っています。
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