Juvenile Calidris sp.
Red-necked Stint or Semipalmated Sandpiper ?

トウネンまたはヒレアシトウネンの可能性が考えられる個体?
茨城県波崎町 2001年9月1日
 Nikon D1H (撮影:今井光雄)
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この幼鳥個体は2001年9月1日、波崎新港北側の埋立中の砂浜にて今井氏含む数名により観察撮影された。最初はヒメハマシギでは?との情報が流れ翌日多くの人数(筆者もその1人)で探索したが発見されなかった。

しかし撮影された画像をよく見てみると、いくつかの特徴より当初推測されたヒメハマシギよりもどちらかといえばヒレアシトウネン
Semipalmated Sandpiper Calidris pusilla)により近い形態を持っているように思う。

もちろんトウネンのバリエーションの一つである可能性も否定はできないが、筆者は今まで観察したり画像で見たトウネンの中で最もヒレアシトウネンに近い特徴を備えた個体と感じた。したがってあくまでも同定されたわけではないのだが、あえて本種の可能性のある個体として撮影者のご協力を得て掲載した。以下、トウネン・ヒレアシトウネン・ヒメハマシギ、ニシトウネンの各種幼鳥との各部位の外見上での比較をしてみた。

<体型・
Jizz
・一般的なトウネンよりも胴が短く特に尾部が短いために、やや寸づまりで頭が大きく見える。

やや羽毛を膨らませていると考えても頭とのバランスや後述の尾羽の突出を考慮するとトウネンとしては不自然。
 →ヒレアシトウネン、ヒメハマシギに近い。
<頭部の模様>
・全体的にはややトウネンに近くコントラストに欠ける。しかし頭頂部の模様は明瞭。
眉班は比較的はっきりとしているが嘴基部上部で頭部の模様によって分断される。
 →トウネン、ヒレアシトウネンに近い。(ヒメハマシギ幼鳥は眉班の前部が太く嘴上部でつながる傾向が強いと思われる。)
<嘴>
・はっきりと計測はしていないが、経験的に
標準的なトウネンの個体に対してやや長い。基部が太く嘴峰先端部まで直線的なラインを描く。しかし先端部はあまり尖らず湾曲も少ない。
 →形状はヒレアシトウネンに近いが長さはヒレアシトウネン・ヒメハマシギのオーバーラップする範囲か。トウネンにも嘴基部の太い個体はいるがその場合基部のみが太く嘴峰が直線的でない事が多い。(なお、この形状よりニシトウネンは否定できると考える。)
<上背(
mantle)>
・明瞭なV字模様はない。
<肩羽>
・肩羽上列の軸班は濃く太い。羽縁には赤褐色味は乏しい。
 →ヒメハマシギ的ではない。
・肩羽下列の軸班と
subterminal bandにより形成される碇型の模様が見られる。その形状はsubterminal band先端部が幅広の「碇」により近いものになっている。
 →ヒレアシトウネン幼羽に近い。ヒメハマシギ幼羽の場合は模様のsubterminal band先端部が直線的な「ダイヤ型」で、本個体とはやや異なる。トウネン幼羽はこのような模様が出ることは稀だがたまにヒレアシトウネンに近い形状の模様を持つ個体が存在する。
<雨覆・3列風切>
・軸班は細く、灰色味が強く、羽縁とのコントラストは弱い。
 →トウネン幼羽に近い。しかしヒレアシトウネン、ヒメハマシギにも同様の個体差は存在する。(またニシトウネンはこの点でも可能性はかなり低いと考える。)
<初列風切の3列からの突出(
primary projection
・3列先端からの初列先端の突出は、トウネンと同等またはより短く見えるが極端に短くは無い。
 →ヒレアシトウネン、ヒメハマシギの範囲内か。
ちなみにトウネンの場合、初列最長羽と2枚目の先端が重なって見え、さらに3枚目も3列先端より先に見えていることが多いと言われる(但し磨耗や脱落がないという前提だが・・・)。本個体は写真を見る限りでは最長羽が重なって見えず2枚のみしか見えていない。
<初列風切の尾羽からの突出(
wing projection)>
画像より見る限りでは、静止時・動作時にかかわらず明らかに初列先端が中央尾羽先端よりも後方に突出している。
 →ヒレアシトウネン、ヒメハマシギに近い。
先述の3列からの初列の突出が一般的なトウネンと同等またはそれ以下と考えると、尾羽の突出がマイナスなのはトウネンではほとんど見られない事である。尾羽が磨耗していたと考えても、画像より推察すると尾羽自体の始点の位置がトウネンとは異なるように感じる(しいてはこの点が先述の体型の違いにつながっている。)
<脚の長さ・蹼の有無
脚は黒色でトウネン並の長さ・太さである。(ニシトウネンはこの点でも否定できる。)
重要な点である蹼(
web)の有無は画像(下の脚部分のアップ参照)を見た限りでは、その有無を判定するのは微妙。ヒレアシトウネンのwebはかなり小さい為に趾の間が完全に見える条件でないと観察しにくいと考えられる。しかし画像より若干それらしきものが写っているようにも見えなくはないが、残念ながらこれ以上何とも言いようがないのが事実である。しかし、ヒメハマシギのは比較的大きくこの画像の程度の角度では十分確認可能だと思えるので、本個体はそれ以外の種である可能性が高い。

以上、野外識別的な方面からざっと感じたことを書いてみたが、結局のところ、
標準的なトウネン的でないのは体型・嘴だけであり、ヒメハマ的でないのは肩羽・眉班の模様の形状との大きさのみということになる。またバンディング等の知見や各種測定値から見ればより違った結果の出る可能性もあるだろう。当然これだけの条件で本個体をヒレアシトウネンと同定することは困難だが、仮に同種としても否定する要素も少ない個体であると思う。勿論最初に述べたように、トウネンのバリエーションの一つである可能性も依然消し去れないのだが・・・。
(@stint)

追記2002.9.
この個体のトウネンとの嘴の比較に関して、「長さに関してはトウネンとして問題ない」という趣旨のご意見や、複数の方より実際にトウネンの嘴の比較的長い個体の画像を頂戴したり、また筆者自身フィールドでそのような個体を探して観察撮影を行った中で、確かにトウネンの中にも本個体と嘴の長さ・形状がオーバーラップする個体が生じる可能性は比較的低い確率ではあるが存在する、と感じるようになりました。従いまして上記の文中で嘴の形状に関して「トウネンを否定する」と書いたのは適当でないと思いましたので、「標準的なトウネン的でない」という表現に若干修正させて頂きました。どうもすみませんでした。但し、このような個体を検討する際には、ある一部分だけでなく総合的な比較検討が重要ですし、嘴以外の体型の特徴などを含めて本個体が「間違いなくトウネンである」とは言えないという考えは変わっておりません。しかしあくまでも画像のみ(実物は観察していない)による筆者の個人的感覚でしかない、という点はご了承願います。

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