Ruff  Philomachus pugnax
 エリマキシギ (Erimakishigi)
   
 
   


♂L26-32cm ♀L20-25cm   P (/ W)

【分布】
日本全国でやや少ない旅鳥、ごく少数が不定期に越冬する。単独か小群の場合がほとんど。秋期の方が多い。
北ヨーロッパから東シベリア北極圏までの広い地域で繁殖し、主に南ヨーロッパ〜アフリカ、中東、インド、一部オーストラリア等へ渡る。
ただし雌雄で渡りの距離が異なる傾向が強く、雄はあまり長距離を渡らない。
日本で観察される個体は、成鳥・幼鳥ともに雄の割合が多い。
北海道では雄の「襟巻」が大きく発達した個体が稀に観察されている。

【環境】
休耕田、蓮田、埋立地、河口干潟など。淡水湿地を好む傾向が強い。

【印象】
・中型で嘴が短い。頭が小さく首は比較的長い。脚は首と同じくらいの長さ。非繁殖羽においてはウズラシギの首を少し伸ばしたようなスタイル。
・雄の繁殖期は特徴的な装飾羽を持つが、日本ではそのような姿は滅多に見られない。雄の各タイプは下記【雑学】を参照。
・上背・肩羽・雨覆・3列風切は黒褐色の軸班と淡色の羽縁が明瞭。
・眉班がほとんど無く、前後が途切れたような細いアイリングがある。
・上背や肩羽を意図的に逆立てていることが多い。理由は不明。
・飛翔時は上尾筒の外側のみ白いが、腰は白く見えない。 
・雌雄でサイズ・体型の差が大きいのが特徴。平均で雄が雌より20%ほど大きい。
標準的な雄は明らかに一回り大きく(ツルシギ程度)、胴体が太くて重量感があり、頭部が胴体に対してより小さく見える。
対して、雌は小さく(クサシギより若干大きい程度)、頭部が胴体に対して比較的大きく見える(頭部自体は雄より若干小さい)ため、やや華奢な印象を受ける。
幼鳥からすでに雌雄の体格の差は発現する。ただし羽毛の状態や姿勢によって体型がかなり変化するので、野外ではよく判らない場合もある。

(夏羽)
(1)雄成鳥夏羽:
・完全に装飾羽が発達すると、特徴的な襟巻(ruff)と、髪の毛のような頭の飾り羽(ear-tuft)が伸長する。しかし日本で見られる換羽中の個体は短い襟巻がある程度でear-tuftはまだ無い場合が多い。頭部〜頸部(襟巻)、上面の模様は個体差が大きく、黒・茶・白・斑模様やそれらの組み合わせなど様々な模様の個体がいる。
(装飾羽のバリエーションの詳細は下記【雑学】参照)
・3列風切は縞模様。腹部は大きな暗色班が入るパターンが多い。
・嘴はピンク色〜橙色と黒・全体に黒など様々。完全に換羽すると嘴基部から額にかけて皮膚が裸出してくる(ただし日本ではそこまでの個体はほとんど見られない)。
・脚は緑黄色、橙色、ピンク等。

(2)雌成鳥夏羽
・全体的に灰褐色味が強い。
・背面は暗色の軸班と灰褐色の組み合わせ。大雨覆・3列風切は縞模様。
・頸〜胸にかけて黒褐色の横縞が入るがやや不明瞭で、腹部では班が少なく白色。
・脇にはやや大きな斑が入る。
・嘴基部は黄色味強く先端は黒。
・脚の色は緑黄色〜橙色〜赤色など。

(冬羽)
・雄・雌共に全体に灰色が強い。
・眉班は無く、頭部〜頸は灰色の不明瞭な班模様。
・肩羽は灰色の地色に、黒い軸班の細いもの・太いくさび型・中央部が薄いもの等個体差がある。
・腹部は白くほぼ無班。
・嘴は基部が橙色、中央〜先端は黒。
・脚の色は成鳥では緑黄色〜橙色。第1回冬羽では灰褐色〜緑黄色と思われる。

(幼羽)
・フレッシュの状態では全体的に黄褐色が強い。(第1回冬へ移行するにつれて次第に灰色味が強くなる。)
・頭部〜腹部は目立った斑紋が無い。
・上背・肩羽・雨覆・3列風切は黒褐色の軸班と淡色の羽縁が非常に明瞭。軸班の形状には個体差があり、内部が淡色の場合・V字型の淡色班が入る場合がある。
・嘴は黒(次第に基部のみ淡色になる)。
・脚の色は成鳥より暗色の傾向があるが、暗灰色〜暗緑黄色〜緑黄色まで変異がある。


【鳴き声】
クエッ グエッ 

【類似種】 
※種名クリックで各種のページへリンク
 ●やや注意: ●コモンシギ(エリマキシギ幼鳥に配色が似ている)

【雑学】
・特異な繁殖生態で知られている。
繁殖地では雄がレック(lek:雄のディスプレイのための集団)を形成し、それぞれの雄が直径数10センチの縄張り内で襟巻を大きく広げて跳ね踊るディスプレイを行う。呼び込まれる雌はより多数の雄のいるレックを好むため、雄同士の縄張りは近接して作られる。
この時の雄の行動パターンは、自分の縄張りを作り雌を呼び込む"independent"タイプ(約8割)と、縄張りを持たずにそれらを取り巻くように行動し、他の縄張りに自由に出入りする"satellite"タイプに大きく分けられる。
"independent"雄同士は基本的に他の雄を追い払い、呼び込んだ雌を独占して交尾を行う。対して"satellite"雄は"independent"雄に完全に追い払れることもなく共存していて、レック内でうろうろしながら他の雄の隙を見て雌と交尾を行う。
さらに2006年に第3の雄"faeder"が存在することが明らかにされた。雄のうちごく少数(1%)だが雌と同じ羽色の個体が存在していて、それらは雌に擬態することで"independent"雄によって呼び込まれた雌と一緒に縄張り内に入りこみ、雌が交尾の体制をした瞬間を突いて「家主」の雄よりも先に交尾を行うという。
・装飾羽の色彩パターンは、上記のの繁殖行動の異なるタイプによって遺伝的に決まっている。ヨーロッパでの研究の場合、以下のパターンがあるという。
 (a) "independent"(縄張りを持つ雄) → 全体的に暗色傾向、頭部・襟巻は黒、オレンジ、縞模様等の組み合わせ
 (b) "satellite"(縄張りを持たない雄) → 頭部/襟巻が白/白または黄色/白 等の組み合わせ
 (c) "faeder"(雌に擬態する雄) → 襟巻は無く、雌夏羽と色彩がほぼ同じ。サイズは雄と雌の中間的で、かつ、雌の色彩と雄のプロポーションの特徴を合わせ持っている。

→<関連Link>
 Ruff /Philomachus pugnax (Wikipedia)
 Ruff Project (by David B. Lank)

・上野動物園で複数が飼育されていて、繁殖期に美しい夏羽を見ることができた(2010年現在)。→残念ながら2013年に死亡したそうです。

   
 エリマキシギ画像集  more images

夏羽 Breeding plumage

初期 / 換羽中 Fresh / moulting
May 2004, Osaka Pref. [male]
April 2001, Chiba Pref. [male]
April 2001, Ibaraki Pref. [male]
May 2001, Chiba Pref. / Apr.2001, Ibaraki Pref.[female] (photo: Fukagawa)
April 1999, Ibaraki Pref. [male & female]


冬羽 Non-breeding plumage

December 2009, Yamaguchi Pref. [female]
February 2006, Aichi Pref. [female]
August 1999, Ibaraki Pref. [male]


第1回冬羽 1st-winter

February 2006, Aichi Pref. [male]


幼羽 Juvenile

September 2007, Kyoto Pref. [male]
August 2001, Kyoto Pref. [male]
September 1998, Chiba Pref. /October 1998, Chiba Pref. [male]


 
 
  


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